各務

フォグX日本一の最新作『夢想灯籠』のイベントは、間もなくの今週末になります。
折角ですから、『夢想灯籠』の話でもしましょうか、と思いついたのです。
と言っても、完成ではないので、全然メモ程度のものになりますが、興味のある者ならご覧になってもいいじゃやないかと思います。
一番気になるのは、やっぱりヒロインに成りうる謎の女性、各務ではないか、と思います。
今度は、長年以来預かっていた伝奇作品の復活になる為に、やっぱり民俗学との関連はとても気になっております。
加藤の参与はあるがどうかは未だ分からないんですが、フォグ作品のスタッフには民俗学・オカルトに興味ある物は少ないはずだと思います。
亡くなった風水先生だって、民俗学・オカルト関連の本を集める慣習があったそうです。


どころで、各務と書いて、カガミと読む訳ですから、鏡との関与は否定しがたいと思います。
現実の各務氏は、清和源氏の末流であって、その関係は後考を望むですが、まず鏡について、中山太郎日本巫女史』の論説を掲示したいと思います。

二、鏡

 鏡の起りは「鑑」であつて、其用途は、陽燧に在つたと云はれてゐるが、我國に渡來する樣に成つてからは、專ら呪術の具として用ゐられてゐた。『景行紀十二年秋九月の條に、神夏礒媛(巫女にして魁帥を兼ねた者。)が參向する際に、


 則拔磯津山賢木,以上枝挂八握劍,中枝挂八咫鏡,下枝挂八尺瓊,亦素幡樹于船舳。


 と有るのは、當時、呪具として最高位の鏡・劍・玉を用ゐた物であつて、此れと全く同一なる記事が『仲哀紀』にも載せてある所を見ると*1、かなり廣く行はれてゐた事が知られるのである。而して鏡が照魔の具として用ゐられた事、及び巫女に限つて鏡を所持した事等は、共に鏡が呪具として重きを為してゐた事が想像される。『萬葉集』卷十四の「山鳥の、尾ろの秀津尾(ハツヲ)に、鏡懸け、唱ふべみこそ、汝に寄そりけめ。(3468)」と有るのは、蒙古に行はれる聖なる幡(ハタック)(此事は次章に云ふ。)と共通の物の樣に想はれるが、兔に角に山鳥は古くから靈鳥として信仰され、且つ十三の斑(フ)を有する尾は呪物として崇拜された物であつて*2、然も其の山鳥の秀尾へ鏡を懸けるとは、言ふ迄も無く、立派な呪具であつたのである。其れ故に下句の「唱ふべみこそ、汝に寄そりけめ。」とは、即ち魂を引寄せるだけの力が有る物と考へられてゐたのである。猶、鏡に就いては、第五章第四節「憑るべの水」の條にも記すので、其れを參照せられん事を希望して、茲には概略に留めるとする。

http://miko.org/~uraki/kuon/furu/explain/column/miko/book/hujyosi/hujyosi014.htm#14-2tama


 つまり、各務そのものには、呪術との関連にあるのではないか、と考えています。事実、古神道において、言霊を表す「真澄の鏡」があります。なお、押井守『「パトレイバー2」演出ノート』によれば、鏡は境界であり、違う世界の、空気の繋がりである、と言っていました。それなりの異界感を醸し出すはずだと思います。なお、話は逸らしてみれば、『緋牙刻』のヒロインたる各物森飛白の各物森ってのは、「鏡の杜」を意味していたことを附記したいんです。それはそれで、伝奇味を深く溢れ出すキーワードで、伝奇作品の再挑戦する今作に、期待の念を申し致します。



*1:仲哀紀八年春正月條に「筑紫伊覩縣主祖五十跡手,聞天皇之行,拔取五百枝賢木,立于船之舳艫,上枝掛八尺瓊,中枝掛白銅鏡,下枝掛十握劍,參迎于穴門引嶋而獻之。」と載せてある。

*2:山鳥尾の呪力に就いては、曾て『土俗と傳說』第三號に「一つ物」と題して拙稿を載せた事が有る。