拾遺和歌集、万葉集試訳

拾遺和歌集 卷十三 戀歌三
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万葉集試訳

4278 【承前,六首第六。】
 足日木乃 夜麻之多日影 可豆良家流 宇倍爾也左良爾 梅乎之努波牟
 足引(あしひき)の 山下日蔭(やましたひかげ) 縵(かづら)ける 上(うへ)にや更(さら)に 梅(うめ)を偲(しの)はむ
 足曳勢險峻 摘取山下日蔭葛 為蘰以餝髮 如是盡歡不飽足 豈更欲將翫梅哉
大伴家持 4278
 右一首,少納言大伴宿禰家持。

「山下日蔭(やましたひかげ)」,「日蔭(ひかげ)」本指日蔭葛,此則為新嘗祭參列者所冠之餝物。
「縵(かづら)ける 上(うへ)にや更(さら)に」,「や...む」乃詠嘆疑問。對於前曲永手退席賞梅之邀約,家持委婉拒絕之答歌。

4279 廿七日,林王宅,餞之但馬按察使橘奈良麻呂朝臣宴歌三首
 能登河乃 後者相牟 之麻之久母 別等伊倍婆 可奈之久母在香
 能登川(のとがは)の 後(のち)には逢(あ)はむ 暫(しまし)くも 別(わか)ると云(い)へば 悲(かな)しくもあるか
 能登川也矣 雖期後日再相逢 縱是須臾間 一旦別離不相見 悲哀愁惱催憂情
船王 4279
 右一首,治部卿船王。

能登川(のとがは)の」,借「能登(のと)」音類而為「後(のち)」之枕詞。
「後(のち)には逢(あ)はむ」,戀歌多作「後(のち)にも逢(あ)はむ」或「後(のち)も逢(あ)はむ」,此或刻意用「には」做出區別。

4280 【承前。】
 立別 君我伊麻左婆 之奇嶋能 人者和禮自久 伊波比弖麻多牟
 立別(たちわか)ちれ 君(きみ)が坐(いま)さば 磯城島(しきしま)の 人(ひと)は我(われ)じく 齋(いは)ひて待(ま)たむ
 餞之將別去 君此啟程不在者 大和磯城島 後居人無分彼此 齋祈無恙待早歸
大伴黑麻呂 4280
 右一首,右京少進大伴宿禰黑麻呂。

磯城島(しきしま)の」,大和之枕詞,此指大和本身。
「我(われ)じく」,非我。雖非自身,卻感同身受。

4281 【承前。】
 白雪能 布里之久山乎 越由加牟 君乎曾母等奈 伊吉能乎爾念
 白雪(しらゆき)の 降敷(ふりし)く山(やま)を 越行(こえゆ)かむ 君(きみ)をそ元無(もとな) 息緒(いきのを)に思(おも)ふ
 浩浩白雪之 紛紛零落敷此山 君越嶺而去 我身無由懸此命 相思熱念莫能止
大伴家持 4281
 左大臣換尾云:「伊伎能乎爾須流。」然猶喻曰:「如前誦之。」也。
 左大臣(ひだりのおほいまうちぎみ)、尾(び)を換(かへ)て云(いふ):「息(いき)の緒(を)にする。」然(しか)れども猶(なほ)し喻曰(さとしていはく):「前(まへ)の如誦(ごとくよ)め。」也(なり)。
 左大臣換尾云:「不覺視之為身命。」然猶喻曰:「如前誦之。」也。
 右一首,少納言大伴宿禰家持。

「息緒(いきのを)に思(おも)ふ」,不惜賭上性命思念。奈良麻呂為家持念茲在茲之橘諸兄之後任,故對其抱有期待。

4282 五年正月四日,於治部少輔石上朝臣宅嗣家宴歌三首
 辭繁 不相問爾 梅花 雪爾之乎禮氐 宇都呂波牟可母
 言繁(ことしげ)み 相問(あひと)は無(な)くに 梅花(うめのはな) 雪(ゆき)に萎(しを)れて 移(うつろ)はむ哉(かも)
 流言蜚語故 久久不來相問間 邸上梅花者 莫非遭逢寒雪摧 枯萎凋零散落哉
石上宅嗣 4282
 右一首,主人石上朝臣宅嗣。

「言繁(ことしげ)み」,他人之謠言不斷。
「相問(あひと)は無(な)くに」,久久不來訪之間。
「移(うつろ)はむ哉(かも)」,以梅花凋零比喻擔憂人之變心。

4283 【承前。】
 梅花 開有之中爾 布敷賣流波 戀哉許母禮留 雪乎持等可
 梅花(うめのはな) 咲(さ)けるが中(なか)に 含(ふふ)めるは 戀(こひ)か隱(こも)れる 雪(ゆき)を待(ま)つとか
 庭前梅花之 一面爭豔盛咲間 含苞待放者 蓋是黯惱憂戀哉 抑或凌霜待雪哉
茨田王 4283
 右一首,中務大輔茨田王。

「含(ふふ)めるは」,花蕾含苞待放之狀。
「戀(こひ)か隱(こも)れる」,沉浸於哀戀而幽居。


摘譯 三島由紀夫 『憂國』

■摘譯 三島由紀夫 『憂國』

中尉の遺書は只一句のみ「皇軍の万歳を祈る」とあり、夫人の遺書は両親に先立つ不幸を詫び、「軍人の妻として来るべき日が参りました」云々と記せり。烈夫烈婦の最期、洵に鬼神をして哭かしむの概あり。因に中尉は享年三十歳、夫人は二十三歳、豪燭の典を挙げしより半歳に充たざりき。

中尉遺書,唯誌「奉祈皇軍萬歳。」一語。夫人遺書,謝捨親先逝之不孝,更記「既為軍人之妻,定命之日臨矣。」烈夫烈婦之終局,甚有慟天地哭鬼神之概。此外,中尉享年卅歳,夫人廿三,去其豪燭舉式連理之日,未足半載。

然し、斯うしてゐる間の沈黙の時間には、雪解けの溪流のやうな清冽さが有つた。中尉は二日に渡る永い懊惱の果てに、我家で美しい妻の顔と對坐してゐる時、初めて心の安らぎを覺えた。言は無いでも、妻が言外の覺悟を察してゐる事が、直ぐ判つたからである。『憂國』

然而,便在如斯靜肅沉默之間,卻有猶融雪溪流之清冽。中尉懊惱長達二日之末,與自家美麗妻子對坐相覷之時,首度感到內心之安詳。不假言語,倏然便知愛妻已然洞悉己身言外之覺悟。
三島由紀夫『憂國』

麗子の体は白く厳そか、盛り上った乳房は、いかにも力強い拒否の潔らかさを示しながら、一旦受け容れたあとでは、それが塒の温かさを湛えた。かれらは床の中でも怖ろしいほど、厳粛なほどまじめだった。おいおい烈しくなる狂態のさなかでもまじめだった。

麗子的身體雪白而莊嚴,隆起的乳房一面展示了強力抗拒之貞潔,一旦受容之後,又轉而充滿著床褥之溫暖。彼等於床第之間,亦是正經得令人畏怖,認真之譜堪稱嚴肅。縱在漸發激烈的狂態之間,仍舊充斥著正經與肅穆。

結婚以来、良人が存在していることは自分が存在していることであり、良人の息づかいの一つ一つはまた自分の息づかいでもあったのに、今、良人は苦痛のなかにありありと存在し、麗子は悲嘆の裡に、何一つ自分の存在の確証をつかんでいなかった。

結婚以來,良人之存在便是自身之存在,良人之吐息便為自身之吐息。然而如今,良人在苦痛中歷然存在,麗子卻身處悲嘆之中,哀怨無法掌握任何自身存在之確証。

麗子は遅疑しなかった。さっきあれほど死んでゆく良人と自分を隔てた苦痛が、今度は自分のものになると思うと、良人のすでに領有している世界に加わることの喜びがあるだけである。苦しんでいる良人の顔には、はじめて見る何か不可解なものがあった。今度は自分がその謎を解くのである。

麗子毫無遅疑。念及方才阻絕於赴死良人與自身間之苦痛,如今將歸屬於己,自身即將加入良人所領有之世界,甚是喜不自禁。良人苦澀之面龐,首見之時蘊有不可解之謎團。而現今,己將親身赴義,解其奧秘。

麗子は咽喉元へ刃先をあてた。一つ突いた。浅かった。頭がひどく熱して来て、手がめちゃくちゃに動いた。刃を横に強く引く。口のなかに温かいものが迸り、目先は吹き上げる血の幻で真赤になった。彼女は力を得て、刃先を強く咽喉の奥へ刺し通した。

麗子以刀尖頂住咽喉。一突,甚淺。頭中感到熾熱,雙手顫慄。強行將刀刃横劃。口中迸起一股溫暖,眼前因血液噴濺之幻覺而化作一片朱紅。她藉此鼓舞了力量,堅毅地將刀尖刺入咽喉深處。