本居宣長

古事記傳巻三の電子テキスト

古事記傳三之巻

本居宣長謹撰

神代一之巻カミヨノハジメノマキ 


天地初發之時アメツチノハ ジメノトキ高天原成神名タカマノハラニナリマセルカミノミナハ天之御中主アメノミナカヌシノ訓、高下天云阿麻。下效此。高御産巣日神ツギニタカミムスビノカミ神産巣日神ツギニカミムスビノカミ此三柱神者コノミバシラノカミハ並獨神成座而ミナヒトリガミナリマシテ隠身也ミヲカクシタマイキ


天地は阿米都知アメツチ漢字カラモジにして、天は阿米アメなり、かくて阿米アメてふ名義ナノココロは、未思ダヒ得ず、抑モロモロコトの、然云シカイフモトココロトク甚難イトカタきわざなるを、シヒトカむとすれば、必ヒガめるコト出來イデクるものなり、【も今も、世人のトケコトども、十に八九はアタらぬことのみなり、凡て皇國ミクニの古言は、たゞに其物其事のあるかたちのまゝに、やすく云初名イヒソメナづけソメめたることにして、さらに深き理などを思ひてイヘる物には非れば、そのこゝろばへをトクべきわざなるに、世々の識者モノシリビト、其代の言語コトドヒの本づけるこゝろばへをば、よくも考へずて、ひたぶるに漢意カラゴコロにならひて、トクゆゑに、すべてアタりがたし、彼漢國ラクも、上代のコトの本は、さしもくちたくはあらざりけむを、彼國俗クニワザとして、何事にもたゞ理と云物をサキにたてて、言の意をトクにも、】

本居宣長全集 第九巻』(筑摩書房)より

ご覧とおり、前回も入力した『玉かつま』と同じ、漢辞*1を極力に避ける模様。わざと和辞*2を使うことに異常な執念が持って書いた有り様。中国人としてこの言葉使いはわだかまりと感じずには居られなかった。
本居宣長は『古事記』を日本固有の神典として上げたい気持ちが良く判りますが、この言葉遣いは古事記(たぶん本居宣長古事記を「ふることぶみ」と呼ぶでしょう)をもっと難解な文字になる一途の可能も多分あると思います。
自分は小さいから理系の人間*3(工学部)ですから、解釈と言うものはできる限り判りやすさに書くべきだと思います。



*1:中国から泊来した言葉。音読みで発声する類。

*2:日本固有の言葉、訓読みで発声するの類。例え「謹啓」を「つつしんでもうす」、「不可侵」を「おかすべからず」と読む類。『漢字と日本人』〔文藝春秋〕によると、固有の日本語は発育不完全な言葉であり、「とり」「さかな」がありながら、その総括する抽象の「動物どうぶつ」がない。「あつい」、「さむい」がありながら、「天気てんき」がないという、「禮義廉恥忠孝仁愛徳」ような概念性言葉は更に言語道断。発展が未完のままに高度進化の漢字がやってきた、和辞の進化も殆ど止まる事に成った。

*3:はてなに「一般的に「理系風の男」はオタクファッションの男のことであり、いい意味を持たない。」がある。まぁ、確かにファッションに気遣わない人間だから言わなくでもないだけど...ビームサーベルなどを装備した事は一度もないぞ!