四代

■四代・永劫回帰  [Dies irae] Mercurius


四代・永劫回帰 [Dies irae] Mercurius
 其者、特異な存在なり。コレまでの座は、総て前任者の理に対する歪として発生し、善悪の交代でしかなかった状態に終止符を打つ。男が要する特殊性の中でも最たるものは、彼の渇望が時間軸を無視していた事。何某かの経験によって強烈な思いを抱き、そこから神域の念を発生させるという原因と結果が入れ替わっている。即ち、既に神座にある己を知覚したからこそ、そこに至った。それまで単一時間、単一宇宙のみで構成されていた座の機構を、破壊し書き換えたのが彼である。
 現在、過去、未来の内包、多元的並行宇宙の同時掌握。それを成したこの男は、過去三代を上回る最大の支配領域を獲得した中興の祖と断言できる。簡潔に述べるならば、三代目の座にとってこの男は、別の時間軸と宇宙から飛来して来た怪物に他ならない。原因と結果を入れ替えた事によって発生した彼の宇宙は、歴代で類を見ない程摩訶不思議なる物と化す。
 神座となった彼が、原因不明の既知感に苛まれながら放浪すること幾星霜……。その果てに出合った女へ抱いた激烈なまでの恋情。我はこの女の手によって生を終えたい。その刹那に、至上至高の未知をくれ。男の渇望はその一点。しかもそれが発動したのは、神座にあって己が自滅因子に討滅された瞬間である。
 意味がわからない。理屈が通らない。神となった彼が、死の間際に神となって流れ出すなど、誰が見ても筋道として破綻している。しかし、彼はそれを可能にする者なのだ。多元時間、多元宇宙、あらゆる領域に手を伸ばしてその不条理を成立させる。
 彼の数多ある持論の一つに、以下の様な物が有る。特異な者が何故特異であるか等と疑問を持つな。そこに意味は何も無い。それは単に、大した理由もなく己に付与していた超越性……それに対する自嘲と自憤なのだろう。我を殺して良いのは彼女のみ。故に嫌だ。故に認めぬ。我はこんな死に方などしたくない。爆発する恋情と悔恨によって流れ出したのは、万象あらゆる者が無限に同じ生を繰り返す回帰の理。男は理想の死に辿り着くまで、何度も同じ生を反復する。
 愛する宝石よ、我を討て。どうかその手で、喜劇に幕を引いてくれ。その結果を得る為ならば、森羅万象あらゆる物は、彼女を主演として機能する舞台装置。我が脚本に踊る演者也。さあ、今宵の劇を始めよう。これぞ四代目の理、四代目の座、四代目の神が背負った真実の総てである。

■五代・輪廻転生 [Dies irae] Marguerite

 其者、神によって改良された神座なり。本来、求道の神格であったものの、先代の座によって見出され、彼の後継者となるべく喜劇の主演に引き立てられた。ある意味で、尤も先代に玩弄された存在だが、彼女に憤りや嘆きは無い。何故ならその生涯で、他者と関わる事が一切出来なかった身である故に。強固な呪いを宿して生まれ、触れれば首を刎ねてしまう。ならばこそ、誰も近寄らぬ永遠の宝石として在り続けたが、その本心では他者との触れ合いを切に切に望んでいた。
 先代が演出した喜劇、その主演として立ち回る日々が彼女を溶かし、変えて行く。愛する者を見出して、守りたく思う輝きの尊さを知り、真に完全なる覇道の神へ、劇的変貌を遂げて行く。抱きしめたい、包みたい。愛しい万象、我が永遠に見守ろう。
 完成した彼女は慈愛の女神。過去、例を見ない程柔らかなその治世は、総ての生命が生まれ変わるという転生の理を具現する。世に悲劇や争いは無くならない。しかし、斯と言って異なる物を排斥すれば、過去の座がそうであったように、必ず歪が生じてしまう。
 故に女神は抱きしめた。善も悪も何もかも、悲劇そのものは無くせ無いが、転生の果てに必ず救いが訪れると、遍く総てを慈しんで。その愛、子を見守り成長を望む母性の具現と言えるだろう。優しき母を嫌う者等存在する筈が無く、それを証明するかのように、彼女は彼女だけの驚異的な特性を有していた。本来、絶対に共存できぬ覇道神を、同時に存在させ得る事。抱き締めるという渇望通り、彼女の腕に抱かれた者は、例え荒ぶる戦神であろうと安らかに微笑んで矛を収める。黄金、水銀、刹那と言う、何れも劣らぬ強大な覇道神が、彼女を守護すると誓う程に女神の治世は揺るぎない。これぞ五代目の理、五代目の座、五代目の神が背負った真実の総てであり──