万葉、お誕生日おめでとうございます

万葉:

今年、ありとあらゆる事情があって、
故に今年の誕生日の誕生日祝いは、自肅する方が良いかどうか、
正直、非常に迷っていました。
でも、やっぱり、この場を借りて、ささやかな祝福の意を述べたいと思います。

異なる時代、そこで出逢った異なる顔・声・名の貴女、
その一つ一つが繋がって久遠の絆という珠玉な作品になって、
我々の巡り合いを語っています。

個人として、貴女との出会いがきっかけになって、
多くな人、書物を知ることになりました。文字通り、世界が広くなっていました。
このたび、そこで出遭った大千三千、森羅万象な物ものから、
和歌を取り上げて、貴女の誕生日を祝いたいと思います。



平安の春。

 見渡(みわた)せば 柳櫻(やなぎさくら)を
     こき混(まぜ)て 都(みやこ)ぞ春(はる)の 錦(にしき)なりける 《素性法師 古今和歌集056》


元禄の夏。

 泣聲(なくこゑ)も 聞(き)えぬ物(もの)の
     哀(かな)しきは 忍(しの)びに燃(も)ゆる 螢也(ほたるなり)けり 《大弐高遠 詞花和歌集073》


幕末の暮秋と初冬。

 千早振(ちはやぶ)る 神(かみ)の齋垣(いがき)に
     這(は)ふ葛(くず)も 秋(あき)には勘(あ)へず 移(うつ)ろひにけり 《紀貫之 古今和歌集262》

 年内(としうち)に 罪消(つみけ)つ庭(には)に
     降雪(ふるゆき)は つのめて後(のち)は 積(つ)もらざらなむ 《藤原道綱母 蜻蛉日記

そして、それらを逢わせて現代の四季、
何度も述べたのですが、恐らく一生忘れることは無かろうと思います。



平安、かぐやの姫たる螢。

 物思(ものおも)へば 澤(さは)の蛍(ほたる)も
     我(わ)が身(み)より  憧出(あくがれいづ)る 魂(たま)かとぞ見(み)る 《和泉式部 後拾遺和歌集1162》


元禄、禿なる綾。

 冬川(ふゆかは)の 波(なみ)の宵間(よひま)に
     凍(こほ)れるを 風(かぜ)もて織(を)れる 綾(あや)かとぞ見(み)る 《賀茂保憲女(桐子?) 賀茂保憲女集122》


幕末、白き巫女・澪

 君恋(きみこ)ふる 涙(なみだ)の床(とこ)に
     満濡(みちぬ)れば 澪標(みをつくし)とぞ 我(われ)は成(な)りける 《藤原興風 古今和歌集567》


現代、幾度も悲惨な過去を経験した、美しさは筆舌に尽くし難く万葉

 丹良(あをによ)し 奈良(なら)の家(いへ)には
     万葉(よろづよ)に 我(われ)も通(かよ)はむ 忘(わす)ると思(おも)ふな 《読み人知らず 万葉集0080


願わくは、貴女の幸せであること。

もう一度、お誕生日おめでとうございます。

                                               浦木裕