メモ・『最愛の死者』

■メモ・『最愛の死者』

 C・M・エディとの共作である『最愛の死者』という小説は、この病的さを更ににたっぷりと描写している。語り手は死体嗜好者で、死体を冒涜できるように葬儀屋で職を得た後 ──「あらゆる肉欲の満足には代償が伴ったが」──徘徊する殺人者になって、その犯罪には「忌わしい残虐行為」が伴う。「夜の企てが終わるつど、常に有害かつ純粋な恍惚とした歓喜の一時が続いた」──自分が冒涜している死体が、埋葬の準備をする為に、自分が勤める葬儀屋に運び込まれるかもしれないという期待によって、歓喜は高まる。しかし最後に注意を疎かにして、ある家族を皆殺しにした後、犠牲者の喉に血まみれの指の跡を残す。物語の最後では、墓地に蹲り、近付きつつある警察犬の唸りに耳を澄ましながら、剃刀を掴んで人生に終止符を打とうとする……

 『羊たちの沈黙』の六十年以上も前の一九二四年に発表されたこの小説は、その現代性と典型的な連続殺人犯の心理を見抜いている事に驚かされる。この小説が『ウィアード・テイルズ』を破産から救った事も記録しておこう。世間の激しい抗議によって、掲載誌が全て販売店から回収され、次号の売り上げが急増したのだ〔天瀧補註、一部の州で回収されたという噂があったに留まる。ちなみに、この小説が掲載されたのは、同誌の五・六・七月合併号で、べージ数も定価も倍という特大号だった。資金繰りの時間稼ぎを狙った措置であり、回収掻ぎが起こっていれば、そのまま廃刊に追いこまれていただろう。「次号」が発行されたのは半年後のことであり、特大号の販売が芳しくなく、長々と仮売店に売れ残っていた事をほのめかしている。〕


コリン・ウィルソン 魔道書ネクロノミコン続篇序文『魔道書ネクロノミコン完全版』p329~330