補給物資、万葉集試訳

■補給物資


万葉集試訳

2108 【承前,卅四十五。】
 秋風者 急急吹來 芽子花 落卷惜三 競立見
 秋風(あきかぜ)は 疾疾(とくと)く吹來(ふきこ) 萩花(はぎのはな) 散(ち)らまく惜(を)しみ 競立(きほひた)たむ見(み)む
 蕭瑟秋風者 疾疾吹來寒凍骨 秋萩芽子花 蓋是惜己將零落 與風相競今可見
佚名 2108

「疾疾(とくと)く吹來(ふきこ)」,「疾(と)く」為現在立刻。「來(こ)」為命令形。
「競(きほ)ひ」乃與之相爭。荻花不欲為秋風吹散而與其相抗之狀。

2109 【承前,卅四十六。】
 我屋前之 芽子之若末長 秋風之 吹南時爾 將開跡思手
 我(わ)が宿(やど)の 萩末長(はぎのうれなが)し 秋風(あきかぜ)の 吹(ふ)きなむ時(とき)に 咲(さ)かむと思(おも)ひて
 吾宿屋前之 秋萩芽子梢末長 當於秋風之 蕭瑟吹拂時節間 隨之將咲所念矣
佚名 2109

「萩末長(はぎのうれなが)し」,末表枝葉之先端。
「吹(ふ)きなむ時(とき)に」,「...む時に」、「...む日は」乃假定條件語。

2110 【承前,卅四十七。】
 人皆者 芽子乎秋云 縱吾等者 乎花之末乎 秋跡者將言
 人皆(ひとみな)は 萩(はぎ)を秋(あき)と言(い)ふ 縱我(よしわれ)は 尾花(をばな)が末(うれ)を 秋(あき)とは言(い)はむ
 天下世間人 皆云以萩為秋矣 人言如此者 吾則當訴猶斯爾 尾花末穗方為秋
佚名 2110

「萩(はぎ)を秋(あき)と言(い)ふ」,人稱荻花乃代表秋天之景物。
「縱(よし)」,放任、許容之表現。呈現不輕易與世間一般嗜好苟同者之雅量。

2111 【承前,卅四十八。】
 玉梓 公之使乃 手折來有 此秋芽子者 雖見不飽鹿裳
 玉梓(たまづさ)の 君(きみ)が使(つかひ)の 手折來(たをりけ)る 此秋萩(このあきはぎ)は 見(み)れど飽(あ)かぬかも
 玉梓華杖兮 君之使人所手折 持來為信物 吾翫此秋芽子者 雖見百遍不飽厭
佚名 2111

「玉梓(たまづさ)の」,「使(つかひ)」之枕詞。

2112 【承前,卅四十九。】
 吾屋前爾 開有秋芽子 常有者 我待人爾 令見猿物乎
 我(わ)が宿(やど)に 咲(さ)ける秋萩(あきはぎ) 常(つね)ならば 我(わ)が待(ま)つ人(ひと)に 見(み)せ益物(ましもの)を
 吾宿屋前間 所咲秋萩芽子花 若有為常者 願能令吾所待人 相與翫之共為賞
佚名 2112

「常(つね)ならば」,常表永久不變者。反事實假想句。

2113 【承前,卅四二十。】
 手寸十名相 殖之名知久 出見者 屋前之早芽子 咲爾家類香聞
 手寸十名相(未詳) 植(う)ゑしく著(しる)く 出見(いでみ)れば 宿初萩(やどのはつはぎ) 咲(さ)きにけるかも
 辛勞插其枝(たきそなへ) 獻身所植有效驗 出戶望見者 吾宿屋前初秋萩 於茲始咲綻一面
佚名 2113

「手寸十名相」,難訓。有「手もすまに」、「たきそなへ」、「たきそなひ」等說,皆有所虞。

2114 【承前,卅四廿一。】
 吾屋外爾 殖生有 秋芽子乎 誰標刺 吾爾不所知
 我(わ)が宿(やど)に 植生(うゑお)ほしたる 秋萩(あきはぎ)を 誰(たれ)か標刺(しめさ)す 我(われ)に知(し)らえず
 吾宿庭院內 所以植生秋萩矣 蓋是為誰人 標刺佔作己有哉 在我所不知之間
佚名 2114

「植生(うゑお)ほしたる」,「生(お)ほす」乃他動詞。
「標刺(しめさ)す」,以杭、繩圈起,表示佔有之記號。用作獨佔女性之比喻。
以掌上明珠比作秋萩之取。


2115 【承前,卅四廿二。】
 手取者 袖并丹覆 美人部師 此白露爾 散卷惜
 手(て)に取(と)れば 袖(そで)さへ匂(にほ)ふ 女郎花(をみなへし) 此白露(このしらつゆ)に 散(ち)らまく惜(を)しも
 以手取之者 衣袖蓋為所渲染 窈窕女郎花 若遭白露摧無情 轉俄零落甚可惜
佚名 2115

「匂(にほ)ふ」,為花之顏色所沾染。

2116 【承前,卅四廿三。】
 白露爾 荒爭金手 咲芽子 散惜兼 雨莫零根
 白露(しらつゆ)に 爭兼(あらそひか)ねて 咲(さ)ける萩(はぎ) 散(ち)らば惜(を)しけむ 雨莫降(あめなふ)りそね
 秋荻手弱女 難與白露爭相抗 所咲芽子花 轉俄零落甚可惜 還願天雨莫甚零
佚名 2116

「爭兼(あらそひか)ねて」,「爭(あらそ)ふ」乃抵抗之意。秋荻難抗白露之熱意而開放,隨即凋零。
以露與荻比喻男女關係。

2117 【承前,卅四廿四。】
 娍嬬等爾 行相乃速稻乎 苅時 成來下 芽子花咲
 娘女等(をとめら)に 行逢早稻(ゆきあひのわせ)を 刈(か)る時(とき)に 成(な)りにけらしも 萩花咲(はぎのはなさ)く
 娍嬬娘子兮 行逢交錯季節改 早稻熟稔之 將苅時節既臨哉 萩花齊咲報知秋
佚名 2117

「娘女等(をとめら)に」,「行逢(ゆきあ)ひ」之枕詞。
「行逢早稻(ゆきあひのわせ)を」,「行逢」指季節交替。「早稻」乃早生種之稻穗。

2118 【承前,卅四廿五。】
 朝霧之 棚引小野之 芽子花 今哉散濫 未猒爾
 朝霧(あさぎり)の 棚引(たなび)く小野(をの)の 萩花(はぎのはな) 今(いま)か散(ち)るらむ 未(いま)だ飽(あ)か無(な)くに
 朝霧湧霏霺 棚引不去小野之 秋荻芽子花 今蓋將散時節歟 吾人意猶雖未盡
佚名 2118

「小野(をの)」,與大野相對,經開拓而有人居住之原野。野指無法耕作水耕田之丘陵地而言。

2119 【承前,卅四廿六。】
 戀之久者 形見爾為與登 吾背子我 殖之秋芽子 花咲爾家里
 戀(こひ)しくは 形見(かたみ)にせよと 我(わ)が背子(せこ)が 植(う)ゑし秋萩(あきはぎ) 花咲(はなさ)きにけり
 戀慕情深者 視為信物以思人 親親吾兄子 所植秋萩芽子花 於今始咲展妍顏
佚名 2119

「形見(かたみ)」,用以睹物思人之物品。

2120 【承前,卅四廿七。】
 秋芽子 戀不盡跡 雖念 思惠也安多良思 又將相八方
 秋萩(あきはぎ)に 戀盡(こひつく)さじと 思(おも)へども しゑや惜(あたら)し 亦(また)も逢(あ)はめやも
 吾人有所思 不為秋荻盡戀慕 雖然有此念 然度花落甚可惜 將來豈有再逢時
佚名 2120

「秋萩(あきはぎ)に 戀盡(こひつく)さじと」,不令自己愛之過切。「戀盡(こひつく)す」指愛到猶如心神遭奪。
「しゑや惜(あたら)し」,「しゑや」表不顧後果、自棄之狀。「惜(あたら)し」乃對物事之消失、衰滅感到惋惜。此云惋惜荻花之盛開將終。
「亦(また)も逢(あ)はめやも」,將荻花擬人化,表示別之後再會無期之危俱。

2121 【承前,卅四廿八。】
 秋風者 日異吹奴 高圓之 野邊之秋芽子 散卷惜裳
 秋風(あきかぜ)は 日(ひ)に異(け)に吹(ふ)きぬ 高圓(たかまと)の 野邊秋萩(のへのあきはぎ) 散(ち)らまく惜(を)しも
 蕭瑟秋風吹 凜冽刺骨與日筯 寧樂高圓山 野邊秋荻芽子花 因而零落甚可惜
佚名 2121

「日(ひ)に異(け)に」,與日俱筯。「異(け)」表格別。

2122 【承前,卅四廿九。】
 大夫之 心者無而 秋芽子之 戀耳八方 奈積而有南
 大夫(ますらを)の 心(こころ)は無(な)しに 秋萩(あきはぎ)の 戀(こひ)のみにやも 滯(なづ)みてありなむ
 愧稱大丈夫 神魂顛倒失堅毅 秋荻花甚美 愛翫戀慕不能止 魂牽夢縈常繫心
佚名 2122

「大夫(ますらを)の」,自嘲心神為荻花所奪,愧稱大丈夫。
「秋萩(あきはぎ)の 戀(こひ)」,對秋萩之執著。
「滯(なづ)みてありなむ」,「滯(なづ)み」於此表拘泥之意。

2123 【承前,卅四三十。】
 吾待之 秋者來奴 雖然 芽子之花曾毛 未開家類
 我(あ)が待(ま)ちし 秋(あき)は來(きた)りぬ 然(しか)れども 萩花(はぎのはな)そも 未咲(いまださ)かずける
 吾人所引領 長相待之秋既來 然雖如此者 無奈秋荻芽子花 仍舊含苞未咲矣
佚名 2123

「未咲(いまださ)かずける」,否定助動詞「ず」與回想助動詞「ける」之組合型。

2124 【承前,卅四卅一。】
 欲見 吾待戀之 秋芽子者 枝毛思美三荷 花開二家里
 見(み)まく欲(ほ)り 我(あ)が待戀(まちこ)ひし 秋萩(あきはぎ)は 枝(えだ)も茂(しみ)みに 花咲(はなさ)きにけり
 朝思復暮想 迫不及待欲相見 魂牽夢縈之 姸哉秋荻芽子花 枝葉繁茂花盛咲
佚名 2124

「枝(えだ)も茂茂(しみみ)に」,「茂茂(しみみ)」乃「茂(し)み」之疊語型。先覺注:「和語の並ひ重點を云ふには次の度は上の字を略する一つの並ひ也。」

2125 【承前,卅四卅二。】
 春日野之 芽子落者 朝東 風爾副而 此間爾落來根
 春日野(かすがの)の 萩(はぎ)は散(ち)りなば 朝東風(あさごち)の 風(かぜ)に伴(たぐ)ひて 此間(ここ)に散來(ちりこ)ね
 寧樂春日野 野間萩花零落者 蓋隨伴東風 隨風飄蕩乘氣旋 散來此間落芬芳
佚名 2125

「朝東風(あさごち)の」,「東風(ごち)」乃自東方吹來之風。按五行思想,東與春相應,故中古以降多用於春歌。
「風(かぜ)に伴(たぐ)ひて」,「伴(たぐ)ひ」乃伴隨、副從之意。
「散來(ちりこ)ね」,「ね」於此表希求。

2126 【承前,卅四卅三。】
 秋芽子者 於鴈不相常 言有者香【一云,言有可聞。】 音乎聞而者 花爾散去流
 秋萩(あきはぎ)は 雁(かり)に逢(あ)はじと 言(い)へればか【一云(またにいふ)、言(い)へれかも。】 聲(こゑ)を聞(き)きては 花(はな)に散(ち)りぬる
 秋萩芽子花 揚言不欲與鴈逢 蓋以言此者【一云,蓋以其言故。】 風聞秋雁鳴啼聲 倏然凋零散去矣
佚名 2126

「雁(かり)に逢(あ)はじと」,俗以雁於彼岸(秋分前後一周)時來,彼岸時去。秋荻之花期亦在此頃。
「言(い)へれば」,疑問條件語。「言(い)へれかも」之制約較少。
「花(はな)に散(ち)りぬる」,此花指一時繁盛而隨即消逝之物。


2127 【承前,卅四卅四。】
 秋去者 妹令視跡 殖之芽子 露霜負而 散來毳
 秋去(あきさ)らば 妹(いも)に見(み)せむと 植(う)ゑし萩(はぎ) 露霜負(つゆしもお)ひて 散(ち)りにけるかも
 欲於秋日時 令吾妹妻所翫而 手植秋萩者 負於露霜遭寒摧 倏然凋零散盡矣
佚名 2127

「露霜(つゆしも)」,露之雅語。

2128 詠鴈 【三首第一。】
 秋風爾 山跡部越 鴈鳴者 射矢遠放 雲隱筒
 秋風(あきかぜ)に 大和(やまと)へ越(こ)ゆる 雁(かり)が音(ね)は 彌遠放(いやとほざか)る 雲隱(くもがく)りつつ
 副乘於秋風 越過虛空見大和 鳴雁啼之音 漸行漸離彌遠放 隱於雲間不知去
佚名 2128

「大和(やまと)へ越(こ)ゆる」,蓋於旅中所作。0954乃作於難波,2136為類歌。

2129 【承前,三首第二。】
 明闇之 朝霧隱 鳴而去 鴈者言戀 於妹告社
 明闇(あけぐれ)の 朝霧隱(あさぎりごも)り 鳴(な)きて行(ゆ)く 雁(かり)は我(あ)が戀(こ)ひ 妹(いも)に告(つ)げこそ
 拂曉黯闇間 隱於朝霧雲霞後 啼鳴而去之 翱翔由虛空飛雁者 請告吾戀與伊人
佚名 2129

「明闇(あけぐれ)の」,黎明之際天仍尚闇之時分。
「雁(かり)は我(あ)が戀(こ)ひ 妹(いも)に告(つ)げこそ」,將飛雁比作使者者,始於前漢忠臣蘇武之雁信故事。原文「言」字乃「我」之意。按『爾雅』釋詁:「吾、予、朕、身、余、言,我也。」

2130 【承前,三首第三。】
 吾屋戶爾 鳴之鴈哭 雲上爾 今夜喧成 國方可聞遊群
 我(わ)が宿(やど)に 鳴(な)きし雁(かり)が音(ね) 雲上(くものうへ)に 今夜鳴(こよひな)くなり 國(くに)へかも行ゆく
 昔日吾宿間 豎耳傾聽鳴雁音 九重天雲上 今夜喧啼聲可聞 蓋是歸去故鄉哉
佚名 2130

「我(わ)が宿(やど)に 鳴(な)きし雁(かり)が音(ね)」,昔日於自宅所聽聞之雁聲。
「國(くに)へかも行ゆく」,「國(くに)」指作者之故鄉。或云飛雁故鄉之北國。

2131 遊群 【承前,十首第一。】
 左小壯鹿之 妻問時爾 月乎吉三 切木四之泣所聞 今時來等霜
 佐雄鹿(さをしか)の 妻問(つまど)ふ時(とき)に 月(つき)を良(よ)み 雁(かり)が音聞(ねき)こゆ 今(いま)し來(く)らしも
 時逢小壯鹿 問妻求婚之際矣 月色美且秀 飛雁鳴音聲可聞 蓋是飛來在此頃
佚名 2131

「月(つき)を良(よ)み」,此云飛雁賞翫美月而飛過。
「雁(かり)が音聞(ねき)こゆ」,原文「切木四」乃指賭博「柶戲」中以四片木片代替骰子,稱為「かり」之借訓。

2132 【承前,十首第二。】
 天雲之 外鴈鳴 從聞之 薄垂霜零 寒此夜者【一云,彌益益爾,戀許曾筯焉。】
 天雲(あまくも)の 外(よそ)に雁(かり)が音(ね) 聞(き)きしより 薄垂霜降(はだれしもふ)り 寒(さむ)し此夜(このよ)は【一云(またにいふ)、彌筯(いやますます)に、戀(こひ)こそ筯(ま)され。】
 遙遙久方兮 天雲之外雁聲鳴 自從聞彼聲 薄垂霜零置斑駁 格別甚寒此夜矣【一云,與寒俱筯彌益益,戀慕之情更切焉。】
佚名 2132

「薄垂霜降(はだれしもふ)り」,「薄垂霜」指薄薄的一層霜。
「戀(こひ)こそ筯(ま)され」,聽聞鳥鹿鳴聲而倍感相思者,見於1419、1475。雁者較為少見。原文末尾「焉」字乃強意助詞,2145亦與こそ連用。

2133 【承前,十首第三。】
 秋田 吾苅婆可能 過去者 鴈之喧所聞 冬方設而
 秋田(あきのた)の 我(わ)が刈量(かりばか)の 過(す)ぎぬれば 雁(かり)が音聞(ねき)こゆ 冬(ふゆ)か片設(かたま)けて
 瑞穗秋田間 吾所生業苅稻之 其分既遂者 鴈之喧音聲可聞 以其寒冬將近矣
佚名 2133

「刈量(かりばか)」,共同收割之際,個人所分擔之區域、分量。「量(はか)」來自「計り、量り」。
「過(す)ぎぬれば」,「過(す)ぐ」表結束、完成之意。

2134 【承前,十首第四。】
 葦邊在 荻之葉左夜藝 秋風之 吹來苗丹 鴈鳴渡【一云,秋風爾,鴈音所聞,今四來霜。】
 葦邊(あしへ)なる 荻葉清(をぎのはさや)ぎ 秋風(あきかぜ)の 吹來(ふきく)る共(なへ)に 雁鳴渡(かりなきわた)る【一云(またにいふ)、秋風(あきかぜ)に、雁(かり)が音聞(ねき)こゆ、今(いま)し來(く)らしも。】
 葦邊所叢生 荻葉聲騷響清清 蕭瑟秋風之 吹來與共隨並進 飛雁鳴渡劃大虛【一云,蕭瑟秋風間,飛鴈鳴泣音可聞,蓋是今之方來哉。】
佚名 2134

「荻葉清(をぎのはさや)ぎ」,「荻(をぎ)」乃生於低層濕原,高達二尺之稻科二年草,形似蘆葦。花穗類於芒草。「清(さや)ぎ」乃枝葉受風吹拂發出聲音之狀。
「吹來(ふきく)る共(なへ)に」,「共(なへ)」表隨之、與共。

2135 【承前,十首第五。】
 押照 難波穿江之 葦邊者 鴈宿有疑 霜乃零爾
 押照(おして)る 難波堀江(なにはほりえ)の 葦邊(あしへ)には 雁寢(かりね)たる哉(かも) 霜降(しものふ)らくに
 日光押照矣 澪標難波堀江之 川畔葦邊者 可有雁宿寢之哉 分明霜降零斑駁
佚名 2135

「押照(おして)る」,難波之枕詞。
「難波堀江(なにはほりえ)」,或單云堀江,今天滿川。仁紱紀十一年「 冬十月,掘宮北之郊原,引南水以入西海。因以號其水曰堀江。又將防北河之澇,以築茨田堤。」https://miko.org/~uraki/kuon/furu/text/syoki/syoki11.htm#sk11_04
「雁寢(かりね)たる哉(かも)」,原文「疑」字乃意訓。
霜降(しものふ)らくに」,倒置而與第四句逆接。

2136 【承前,十首第六。】
 秋風爾 山飛越 鴈鳴之 聲遠離 雲隱良思
 秋風(あきかぜ)に 山飛越(やまとびこ)ゆる 雁(かり)が音(ね)の 聲遠離(こゑとほざか)る 雲隱(くもがく)るらし
 副乘於秋風 飛越群山度峻嶺 鳴雁啼之音 其聲遠離更千里外 隱於雲間不知去
佚名 2136

「秋風(あきかぜ)に 山飛越(やまとびこ)ゆる」,與2128「秋風に 大和へ越ゆる 雁が音は 彌遠放る 雲隱りつつ」為類歌。https://miko.org/~uraki/kuon/furu/text/waka/manyou/m10.htm#2128

2137 【承前,十首第七。】
 朝爾徃 鴈之鳴音者 如吾 物念可毛 聲之悲
 朝(つと)に行(ゆ)く 雁鳴(かりのな)く音(ね)は 我(あ)が如(ごと)く 物思(ものおも)へ哉(かも) 聲悲(こゑのかな)しき
 朝晨飛去之 斷雁孤鴻鳴音者 蓋猶吾人之 沉於物憂哀思哉 其聲悲切慘戚戚
佚名 2137

「朝(つと)に行(ゆ)く」,原文「朝爾徃」,舊訓與古寫本多作「朝(つと)に行(ゆ)く」。表示時間之詞,多半不以「に」相接,「朝(あさ)に」之例更為少見。故此遵古訓作「朝(つと)に行(ゆ)く」。或有「あさにけに」之說,仍俟後考。
「物思(ものおも)へ哉(かも)」,疑問條件語。

2138 【承前,十首第八。】
 多頭我鳴乃 今朝鳴奈倍爾 鴈鳴者 何處指香 雲隱良武
 鶴(たづ)が音(ね)の 今朝鳴(けさな)く共(なへ)に 雁(かり)が音(ね)は 何處指(いづくさ)してか 雲隱(くもがく)るらむ
 副於在今朝 鶴音啼泣來鳴而 同時鴈鳴者 當是指於何處向 雲隱千里不知去
佚名 2138

「鶴(たづ)が音(ね)」,鶴鳴,此代指鶴本身。其後「雁(かり)が音(ね)」亦效此。
「今朝鳴(けさな)く共(なへ)に」,「共(なへ)」於此乃逆接用法。飛來日本之鶴乃鍋鶴,時期較雁晚一個月左右。

2139 【承前,十首第九。】
 野干玉之 夜渡鴈者 欝 幾夜乎歷而鹿 己名乎告
 烏玉(ぬばたま)の 夜渡(よわた)る雁(かり)は 欝(おほほ)しく 幾夜(いくよ)を經(へ)てか 己(おの)が名(な)を告(の)る
 漆鄢烏玉兮 闇夜越渡飛雁者 其聲鳴欝欝 當經幾夜歷幾宵 延延相告己名哉
佚名 2139

「欝(おほほ)しく」,此云雁聲不明確。
「己(おの)が名(な)を告(の)る」,日文「雁(かり)」取自其鳴聲,故聞雁鳴猶聞其連呼己名。

2140 【承前,十首第十。】
 璞 年之經徃者 阿跡念登 夜渡吾乎 問人哉誰
 新(あらた)まの 年經往(としのへゆ)けば 率(あども)ふと 夜渡(よわた)る我(われ)を 問(と)ふ人(ひと)や誰(たれ)
 日新復月異 歲更年之經徃者 對於率眾而 夜渡大虛吾雁身 所問人哉是誰也
佚名 2140

「年經往(としのへゆ)けば」,雁哪乃於晚秋飛來,春日歸兮北國之侯鳥,於日本過年,故云此。
「率(あども)ふと」,率乃引率,帶頭之雁發聲率群之狀。

2141 詠鹿鳴 【十六第一。】
 比日之 秋朝開爾 霧隱 妻呼雄鹿之 音之亮左
 此頃(このころ)の 秋朝明(あきのあさけ)に 霧隱(きりごも)り 妻呼(つまよ)ぶ鹿(しか)の 聲清(こゑのさや)けさ
 比日近頃之 秋夜將過朝明時 隱於迷霧間 雄鹿呼妻聲嘹亮 鳴音響徹不曾絕
佚名 2141

「聲清(こゑのさや)けさ」,「清(さや)けさ」原文「亮」,『新撰字鏡』「亮,朗也。」

2142 【承前,十六第二。】
 左男壯鹿之 妻整登 鳴音之 將至極 靡芽子原
 佐雄鹿(さをしか)の 妻呼集(つまととの)ふと 鳴聲(なくこゑ)の 至(いた)らむ極(きは)み 靡(なび)け萩原(はぎはら)
 小壯雄鹿之 將欲呼集其妻而 所啼鳴聲之 鳴亮遼遠將至極 所靡草偃此荻原
佚名 2142

「妻呼集(つまととの)ふと」,「呼集(ととの)ふ」乃統整大群動作之統御之意。母鹿受雄鹿鳴聲牽引,圍繞聚集之習性。
「至(いた)らむ極(きは)み」,鳴聲將屆之極境。
「靡(なび)け萩原(はぎはら)」,願萩原草偃,以利雄鹿鳴聲遠播。

2143 【承前,十六第三。】
 於君戀 裏觸居者 敷野之 秋芽子凌 左小壯鹿鳴裳
 君(きみ)に戀(こ)ひ 衷觸居(うらぶれを)れば 敷野(しきのの)の 秋萩凌(あきはぎしの)ぎ 佐雄鹿鳴(さをしかな)くも
 相思慕伊人 不覺衷心悲懷時 磯城敷野之 靡闢秋萩凌芽子 牡鹿悲啼聲可聞
佚名 2143

「衷觸居(うらぶれを)れば」,「衷居(うらぶ)れ」乃失去氣力之狀。
「敷野(しきのの)」,所在未詳。或為大和國磯城
「佐雄鹿鳴(さをしかな)くも」,以鳥獸鳴啼比做人類悲泣。鹿亦因苦無配偶而覓求之狀與『古今和歌集』216「秋荻に 物思れをれば 足引の 山下と詠み 鹿の鳴くらむ」相類。

2144 【承前,十六第四。】
 鴈來 芽子者散跡 左小壯鹿之 鳴成音毛 裏觸丹來
 雁(かり)は來(き)ぬ 萩(はぎ)は散(ち)りぬと 佐雄鹿(さをしか)の 鳴(な)くなる聲(こゑ)も 衷觸(うらぶ)れにけり
 鴈來秋已晚 荻花既散華凋零 呼妻小壯鹿 鳴聲悽悽慘戚戚 聞之衷心更悲哀
佚名 2144

「鳴(な)くなる聲(こゑ)も」,此「鳴(な)く」有哀傷悲鳴之意。「なり」乃傳聞推定助動詞。

2145 【承前,十六第五。】
 秋芽子之 戀裳不盡者 左壯鹿之 聲伊續伊繼 戀許筯益焉
 秋萩(あきはぎ)の 戀(こひ)も盡(つ)きねば 佐雄鹿(さをしか)の 聲(こゑ)い繼(つ)ぎい繼(つ)ぎ 戀(こひ)こそ筯(ま)され
 胸懷對秋荻 戀慕未解心仍懸 呼妻小壯鹿 淒切啼鳴聲耳聞 相思之情情更催
佚名 2145

「秋萩(あきはぎ)の 戀(こひ)も盡(つ)きねば」,ねば表「尚未...之時。」
「聲(こゑ)い繼(つ)ぎい繼(つ)ぎ」,「い」為接頭語。
「戀(こひ)こそ筯(ま)され」,「戀(こひ)」表對人之相思之情。

2146 【承前,十六第六。】
 山近 家哉可居 左小壯鹿乃 音乎聞乍 宿不勝鴨
 山近(やまちか)く 家(いへ)や居(を)るべき 佐雄鹿(さをしか)の 聲(こゑ)を聞(き)きつつ 寐難(いねかて)ぬかも
 後悔不當初 興室豈可近山哉 嗚呼小壯鹿 呼妻啼聲悽悽作 聞之輾轉更難眠
佚名 2146

「家(いへ)や居(を)るべき」,不該構居於茲。「べき」於此違反語。
「寐難(いねかて)ぬかも」,此云聽聞雄鹿戀妻之鳴,更陷相思之愁,遂難以入眠。

2147 【承前,十六第七。】
 山邊爾 射去薩雄者 雖大有 山爾文野爾文 紗少壯鹿鳴母
 山邊(やまのへ)に い行(ゆ)く獵夫(さつを)は 多(おほ)かれど 山(やま)にも野(の)にも 佐雄鹿鳴(さをしかな)くも
 吾人有所思 行去山邊獵夫者 其數雖多矣 然而無論山野間 小壯鹿鳴迴盪樣
佚名 2147

「い行(ゆ)く獵夫(さつを)は」,「い」為接頭語,「獵夫(さつを)」之「さつ=幸」乃獵具、獵果之意。
「佐雄鹿鳴(さをしかな)くも」,與1446「妻戀ひに 己が當りを 人に知れつつ」https://miko.org/~uraki/kuon/furu/text/waka/manyou/m08.htm#1446 相類,悲憫雄鹿輕率發聲之曲。

2148 【承前,十六第八。】
 足日木笶 山從來世波 左小壯鹿之 妻呼音 聞益物乎
 足引(あしひき)の 山(やま)より來(き)せば 佐雄鹿(さをしか)の 妻呼(つまよ)ぶ聲(こゑ)を 聞(き)か益物(ましもの)を
 足曳勢險峻 若循山道越來者 嗚呼小壯鹿 殷殷切切喚妻聲 回想林間當可聞
佚名 2148

「足引(あしひき)の」,原文「笶」與「箟」同,用以造矢之竹,自古稱之為「の」。
「山(やま)より來(き)せば」,「より」表經由點。「せば」乃反事實假定。蓋聞經山路而來之友人論及聽聞鹿鳴,而後悔自己亦經山路而來當可聽之。

2149 【承前,十六第九。】
 山邊庭 薩雄乃禰良比 恐跡 小壯鹿鳴成 妻之眼乎欲焉
 山邊(やまへ)には 獵夫狙(さつをのねら)ひ 畏(かし)こけど 雄鹿鳴(をしかな)くなり 妻(つま)が目(め)を欲(ほ)り
 雖然在山邊 獵夫狩人狙可畏 然而小壯鹿 喚妻鳴聲啼不斷 欲拜妻眉情深切
佚名 2149

「獵夫狙(さつをのねら)ひ」,獵人埋伏將射之狀。
「妻(つま)が目(め)を欲(ほ)り」,因為欲與伊人相逢而不顧身命。