喪中欠禮

■喪中欠禮
祖母憂に丁(あた)り故、今年の年賀は控えさせて頂きます。
後日、寒中見舞いを出します。


■回天パイロットの遺書

 帰省の友人に頼んで送る。
 何も言ふ事は無い。只来るべき秋(とき)を静かに待つてゐます。
 日本中が軍神で埋もれねば勝てぬ戦です。東京も再三空襲された様子、別に心配もしません。体に気をつげて下さい。便りを致しませんが心配なさらんで下さい。昔の私ではありません。
 御両親の幸福の条件の中から、太郎を早く除いて下さい。話さねば会はねば分らぬ心ではない筈、何時の日か喜ばしい決定的な便りをお届けします。
 正直な処チヨツト幼い頃が懐しい気がします。帰りの車中はお蔭で愉快でしたが母上の泣声が聞こえて嫌でした。もつと愉快になつて勝利の日まで頑張つて下さい。
 悠策や日出子、五百子はきつと親孝行するよい子になりますね。ママ、パパ、私のする事を信じて見てゐて下さい。

気になって出所を見つからなかった物の一つで、やっぱり『女たちの大和』に収録されてます。
塚本太郎、この物を書いたのは、二十歳と二ヶ月でした。「御両親の幸福の条件の中から、太郎を早く除いて下さい。」という一言に、無限なる切なさが詰めているのと感じてゐます。戦争が色々の弊害をだすものの、平和の時の若者はこういう物を書けないであろうと思います。