試譯 三島由紀夫『英靈之聲』

■二二六事件紀念 試譯 三島由紀夫『英靈之聲』(更新)

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 吾等以死,得悉通盤。此身既歿,復無外力,能禁吾語。我等朋輩,能論悉數,資格備矣。何以?吾等已抛頭顱、淌赤心之血也。憶及昔日,赴刑場之途上,一上尉雄詰怒吼之語,今日再度,甦於胸膛。『我眾若死,必得以染血之姿,赴天皇陛下御前矣。如是,縱然身死形滅,仍是奉為聖君,鞠躬盡瘁而已。天皇陛下萬歲!大日本帝國萬歲!』然而吾等雖然如斯殞命,魂魄可曾躬赴陛下之許哉?
 我等之所欲語者,恰為其事。洞悉一切之後,神語相論者,便是其事。然而首先,我等先議熱戀。相語其戀慕之激烈,其戀慕之至純!

 於大演習黃塵之彼方,天皇御旗飄揚之下,大元帥陛下騎乘白馬之姿,遙遠渺小。是乃吾等當為其死,顯人神之真影,永銘於心。其神彌遠,其姿細微,其形麗美,其狀清朗,光華明彩,照徹六合。我等蒙賜之軍帽,其星芒徽章,仍與昔日無異。

 我等(われら)には、死んで總(すべ)てが判(わか)つた。死んで今や、我等(われら)の言葉を禁(とど)める力は何一つ無(な)い。我等(われら)は總(すべ)てを言ふ資格が有る。何故なら我等(われら)は、真心(まごころ)の血を流したからだ。今再(ふたた)び、刑場へ赴く途中、一大尉が叫んだ言葉が胸に甦(よみがへ)る。『皆死んだら血の付(つ)いた儘(まま)、天皇陛下の所(ところ)に行くぞ。而(しかう)して死んでも大君の為に盡すんだぞ。天皇陛下萬歲。大日本帝國萬歲』そして死んだ我等(われら)は天皇陛下の所(ところ)へ行つたか?
 我等(われら)の語らうと思ふ事(こと)は其事(そのこと)だ。總(すべ)てを知つた今、神語りに語らうと思ふのは其事(そのこと)だ。然(しか)し先(ま)づ、我等(われら)は戀について語るだらう。あの戀の激(はげ)しさと、あの戀の至純について語るだらう。

 大演習の黃塵の彼方(かなた)、天皇旗の閃(ひらめ)く下に、白馬に跨られた大元帥陛下の御姿は、遠く小さく、我等(われら)が其(そ)の為(ため)に死すべき現人神の御形(おんすがた)として、我等(われら)が心に燒付(やきつ)けられた。神は遠く、小さく、美しく、清らかに光つて居(ゐ)た。我等(われら)が賜はつた軍帽の徽章の星を其(そ)の儘(まま)に。


 吾等之國體,是即心與血之聯繫,單戀莫得成就,實乃戀闕之劇烈喜悅也。然而映於吾等眼簾者,遙遙陛下,正遭醜陋怪獸所幽閉,龍體清廉而寂寞,苦為奸臣所囚。

 吾等遂憤然興起義軍。爾等思之。
 其大雪紛飛之日,潛藏歷史深處之維新之力,奉為聖君與蒼生、顯神與人民、高居十善御位之御方與忠勇之青年,備齊稀有對話之機會。
 爾等思之。
 其時,千五百秋玉穗瑞穗之國,化作荒蕪之地。蒼生泣於飢餓,女兒遭逢賣身,聖君所治之王土,為死亡所充滿。眾神計量神謀,汲取歷史深井中至潔之清水,將其澆注吾等頭上,代替伏身荒地之啜泣蒼生,暗自安排與現人神之對話。
 吾度其成就之時,神國倏然顯現,狹蠅厭魅、災厄禍亂之疇,盡皆祓除。我等國體,必如水晶澄明,國中當為至福滿溢。

 我等(われら)が國體とは心と血の繫(つなが)り、片戀の有(あ)り得(え)ぬ戀闕(れんけつ)の劇烈な悅(よろこ)びなのだ。然(さ)れば我等(われら)の目に、遙(はる)か陛下は、醜き怪獸共(ども)に幽閉されて御座(おは)します、清らにも淋しい囚はれの御身と映つた。

 我等(われら)は遂(つひ)に義兵を舉げた。思ひみよ。其(そ)の雪の日に、我(わ)が歷史の奧底に潛(ひそ)む維新の力は、大君と民草、神と人、十善の御位に坐(ましま)す御方(おんかた)と忠勇の若者との、稀なる對話を用意してゐた。
 思ひみよ。
 其時(そのとき)玉穗為(な)す瑞穗國(みづほのくに)は荒蕪の地と化し、民は餓ゑに泣き、女兒は賣られ、大君の治(しろしめ)す王土は死に充ちてゐた。神神は神謀りに謀賜(はかりたま)ひ、我(わ)が歷史の井戶の尤(もつと)も清らかな水を汲上(くみあ)げ、其(それ)を我等(われら)が頭(かうべ)に注いで、荒地に身を伏して泣く蒼氓に代らしめ、現人神との對話を竊(ひそか)に用意された。其時(そのとき)こそ神國は顯現し、狹蠅為(な)す禍津日共(まがつびども)は吹拂(ふきはら)はれ、我(わ)が國體は水晶の如(ごと)く澄渡(すみわた)り、國には至福が漲る筈だつた。

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